カフェインと片頭痛の関係:再診研究から分かった真実
- 大阪頭痛脳神経クリニック
- 15 時間前
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はじめに:カフェインと片頭痛の関係への疑問
「コーヒーを飲むと頭痛が起こる」「片頭痛の人はカフェインを避けるべき」といった話を耳にしたことはありませんか?多くの片頭痛患者さんや医療従事者の間で、カフェインが頭痛の引き金(トリガー)になるという考えが広く信じられています。
実際に、アメリカでは85%の人が日常的にカフェイン含有飲料を摂取しており、コーヒーは水に次いで2番目に多く消費されるノンアルコール飲料です。このように身近なカフェインですが、片頭痛との関係については科学的な証拠が不足していました。
ポイント:これまでの研究の多くは、患者さんの記憶に頼った調査や短期間の観察に限られており、習慣的なカフェイン摂取が実際に片頭痛にどのような影響を与えるかは明確ではありませんでした。
目次
研究の概要と方法
研究の設計
2024年に「Headache」に発表されたハーバード大学の研究チームによる論文はこの疑問に科学的な答えを提供しています。
この研究は「前向きコホート研究」という手法を用いており、これは参加者を長期間にわたって追跡調査する信頼性の高い研究方法です。
研究参加者
この研究には、医師によって反復性片頭痛(頭痛が月15日未満の片頭痛)と診断された97名の成人が参加しました。参加者の特徴は以下の通りです
項目 | カフェイン摂取なし (20名) | 1-2杯/日 (65名) | 3-4杯/日 (12名) | 全体 (97名) |
年齢(中央値) | 33.5歳 | 31.0歳 | 32.0歳 | 31.0歳 |
女性の割合 | 85% | 91% | 75% | 88% |
基準時の月間頭痛日数 | 4.0日 | 4.0日 | 3.0日 | 4.0日 |
予防薬の使用 | 30% | 29% | 8% | 27% |
研究方法
研究は2016年3月から2017年8月にかけて、ボストンの3つの病院で実施されました。参加者は研究開始時に習慣的なカフェイン飲料摂取について回答し、その後6週間にわたって1日2回の電子日記をつけました。この日記では頭痛の発生、持続時間、痛みの強度(0-100のスケール)を詳細に記録しました。
研究結果の詳細
主要な発見
6週間の観察期間中に収集されたデータを分析した結果驚くべき事実が明らかになりました。習慣的なカフェイン飲料の摂取量は、頭痛の頻度、持続時間、強度のいずれとも関連がありませんでした。
頭痛の特徴 | カフェイン摂取なし | 1-2杯/日 | 3-4杯/日 |
月間頭痛日数(平均) | 7.1日 (95% CI: 5.1-9.2) | 7.4日 (95% CI: 6.1-8.7) | 5.9日 (95% CI: 3.3-8.4) |
頭痛持続時間(平均) | 8.6時間 (95% CI: 3.8-13.3) | 8.5時間 (95% CI: 5.5-11.5) | 8.8時間 (95% CI: 2.3-14.9) |
頭痛の強度(平均) | 43.8 (95% CI: 37.0-50.5) | 43.1 (95% CI: 38.9-47.4) | 46.5 (95% CI: 37.8-55.3) |

統計学的分析
年齢、性別、経口避妊薬の使用を調整した多変量線形回帰分析の結果
頻度:カフェインを摂取しない群と比較して、1-2杯摂取群は0.3日多く、3-4杯摂取群は1.3日少ない結果でしたが、いずれも統計学的に有意ではありませんでした。
持続時間:グループ間で有意な差は認められませんでした。
強度:痛みの強度においても、カフェイン摂取量による有意な差はありませんでした。
カフェインの作用メカニズム
カフェインが脳に与える影響
カフェインがなぜ頭痛に影響を与える可能性があるのかを理解するために、その作用メカニズムを見てみましょう。
アデノシン受容体との相互作用
カフェインは、脳内でアデノシンという物質の受容体を阻害します。
アデノシンは疼痛の調節に関与しており、どの受容体が活性化されるかによって、痛みを増強したり軽減したりします。
片頭痛は三叉神経節の活性化と関連しており、動物実験では痛みを増強するアデノシン受容体が増加することが分かっています。
習慣的摂取による変化
習慣的にカフェインを摂取すると、体は次のような適応を示します
アデノシン受容体の数が増加する
細胞外のアデノシン濃度が上昇する
これらの変化により、カフェインの阻害効果に対する代償機構が働く
発見:この研究結果は、片頭痛患者における習慣的なカフェイン使用では、アデノシンシグナルの大幅な変化は起こらない可能性を示唆しています。ただし、普段の摂取量から大きく変化した場合(急激な増加や中断)は、頭痛の引き金となる可能性があります。
カフェインの頭痛治療への応用
興味深いことに、カフェインは頭痛治療にも使用されています。
130mgのカフェインをアセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンなどの鎮痛剤と組み合わせることで、鎮痛剤単独よりも高い効果が得られることが知られています。
臨床的な意義と患者様へのアドバイス
この研究が患者さんに与える重要なメッセージ
習慣的なカフェイン摂取を過度に心配する必要はありません。
この研究結果は、反復性片頭痛の患者さんが日常的にカフェイン飲料を避ける必要があるという推奨を支持していません。
実用的なアドバイス
1. 適度な摂取を心がける
この研究の参加者の多くは1日1-2杯のカフェイン飲料を摂取しており、これは米国の一般的な摂取量と同程度かやや少ない量でした。適度な摂取(1日2-3杯程度)であれば、片頭痛への悪影響は考えにくいと言えます。
2. 急激な変化を避ける
重要なのは、普段の摂取パターンから急激に変化させないことです
普段コーヒーを飲まない人が急に大量摂取するのは避ける
習慣的に摂取している人が突然完全に中断するのも避ける
摂取量を変える場合は徐々に調整する
3. 個人差を認識する
この研究では全体的な傾向を示していますが、個人によってカフェインへの反応は異なる可能性があります。頭痛日記をつけて、自分にとってのパターンを把握することが大切です。
4. カフェイン以外の要因も考慮
片頭痛には多くの要因が関与します
睡眠パターンの変化
ストレス
ホルモンの変動
気候の変化
食事のタイミング
注意が必要な場合
薬物乱用頭痛の既往がある方:カフェイン含有鎮痛剤の頻繁な使用は薬物乱用頭痛のリスクを高める可能性があります
妊娠中の方:妊娠によりカフェインの半減期が約2倍に延長されるため、摂取量の調整が必要な場合があります
経口避妊薬を服用中の方:エストロゲンによりカフェインの代謝が遅くなるため、効果が長続きする可能性があります
注意点と今後の展望
この研究の限界
この研究は重要な知見を提供していますがいくつかの限界があることも理解しておく必要があります
1. サンプルサイズと摂取量の限界
非常に高い摂取量(1日5杯以上)を摂取する参加者はいませんでした
3-4杯/日の摂取群は12名と少数でした
統計的検出力が限られていた可能性があります
2. 摂取内容の詳細不足
「1杯」の定義が標準化されていませんでした
コーヒー、茶、炭酸飲料など、飲料の種類による違いは検討されていませんでした
チョコレートなど他のカフェイン源は含まれていませんでした
3. 研究対象の特徴
参加者は比較的健康で、カフェイン摂取量も一般的な範囲でした
より重症な片頭痛患者や高摂取者での結果は不明です
今後の研究の方向性
この研究を受けて、以下のような研究が期待されています
1. より大規模な研究
より多様な背景を持つ患者さんを含む大規模な研究により結果の一般化可能性を高めることが重要です。
2. 高摂取量での影響調査
1日5杯以上の高摂取量における影響について詳細な調査が必要です。
3. 介入研究
カフェイン摂取量を意図的に変化させる臨床試験により、因果関係をより明確にすることができます。
4. 個別化医療への応用
遺伝的背景や代謝能力の違いを考慮した個別化されたカフェイン摂取指導の開発が期待されます。
コメント
カフェイン摂取と頭痛に関する論文についてまとめました。
明らかなリスクとしてはこの研究ではなかったようですが、カフェインに関してはカフェイン離脱頭痛として国際頭痛分類にも記載されております。市販の痛み止めに無水カフェインとして配合されていて、鎮痛補助成分として作用するので一度の使用ならよろしいですが慢性的に内服していると薬剤使用過多の頭痛が発生しやすくなることは記載されております。一方で習慣としてコーヒーなどがリラックスにつながる方もいらっしゃいますので嗜好品として、適切な量のカフェイン摂取であれば、特に頭痛診療をしていて制限することはございません。
ただコーヒーを飲まないと頭痛が起こってしまう離脱頭痛があり、治療を希望される方はカフェインの量を相談しながらの治療をしていきましょう。
参考文献
Mittleman, M.R., Mostofsky, E., Vgontzas, A., & Bertisch, S. (2024). Habitual caffeinated beverage consumption and headaches among adults with episodic migraine: a prospective cohort study. Headache, 64(3), 299-305. doi:10.1111/head.14673
Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). (2018). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia, 38, 1-211.
Lipton, R.B., Diener, H.C., Robbins, M.S., Garas, S.Y., & Patel, K. (2017). Caffeine in the management of patients with headache. Journal of Headache and Pain, 18, 107.
Mostofsky, E., Mittleman, M.A., Buettner, C., Li, W., & Bertisch, S.M. (2019). Prospective Cohort Study of Caffeinated Beverage Intake as a Potential Trigger of Headaches among Migraineurs. American Journal of Medicine, 132, 984-991.
Poole, R., Kennedy, O.J., Roderick, P., Fallowfield, J.A., Hayes, P.C., & Parkes, J. (2017). Coffee consumption and health: umbrella review of meta-analyses of multiple health outcomes. BMJ, 359, j5024.
Fried, N.T., Elliott, M.B., & Oshinsky, M.L. (2017). The Role of Adenosine Signaling in Headache: A Review. Brain Sciences, 7.
注意事項:この記事は教育目的で作成されており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。片頭痛の治療や生活習慣の変更については、必ず医師にご相談ください。
監修医師紹介
大阪頭痛脳神経クリニック
猪股 拓海 Takumi Inomata

資格・所属学会
日本内科学会 内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本神経学会 脳神経内科専門医
専門分野
脳神経内科
略歴
2018年
秋田大学医学部医学科 卒業
市立秋田総合病院 初期臨床研究プログラム
2020年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2022年
国立病院機構 あきた病院 脳神経内科
2023年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2025年
天王寺だい脳神経外科
2026年
大阪頭痛脳神経クリニック / 天王寺だい脳神経外科
天王寺だい脳神経外科
山田 大 Dai Yamada

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
身体福祉障害者指定医
難病指定医
日本脳神経外科コングレス
日本頭痛学会
日本脳卒中学会
日本認知症学会
日本頭痛学会 頭痛専門医
専門分野
頭痛の治療
認知症の治療
首、腰の病気、しびれ
血管の病気
めまい、たちくらみ
てんかん
高血圧、高脂血症、糖尿病
リハビリテーション
略 歴
2013年
近畿大学医学部医学科 卒業
高砂市民病院 初期研修医 内科、外科、製鉄記念広畑病院 救急科
2015年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2018年
医療法人寿会 福島県 総合南東北病院 脳神経外科
2019年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2021年12月
医療法人寿会 富永病院 退職
2022年2月
天王寺だい脳神経外科 開院


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