妊娠中の頭痛管理:神経調節デバイス
- 大阪頭痛脳神経クリニック
- 5月7日
- 読了時間: 9分

妊娠中のつらい片頭痛や頭痛に対し薬を使わない「神経調節デバイス」という選択肢が注目されています。安全性と効果についての最新情報をお届けします。
はじめに
妊娠は女性の身体に大きな変化をもたらす期間ですが、同時に頭痛持ちの方にとっては不安の多い時期でもあります。
「頭が痛いけれど、薬を飲むと赤ちゃんに影響があるのではないか?」 そう考えて痛みを我慢してしまう妊婦さんは少なくありません。
本記事では、最新の医学論文(2025年発表)に基づき薬に頼らない治療法として注目される「神経調節デバイス(ニューロモジュレーション)」についてその効果と安全性を解説します。
目次
妊娠中の頭痛の現状と課題:なぜ治療が難しいのか
片頭痛は女性に多く見られる神経疾患であり、特に妊娠可能な年齢層(15〜49歳)の女性の約20%が影響を受けています。
妊娠中、ホルモンの安定により約3分の2の患者さんで片頭痛は改善しますが残りの方は妊娠中も頭痛に悩まされ、特に妊娠初期には悪化することさえあります。
しかし、妊娠中の頭痛治療には大きな課題があります。
それは「使える薬が限られている」ことです。
安全性への懸念:多くの片頭痛予防薬や急性期治療薬は胎児への催奇形性(奇形を引き起こすリスク)や安全性が不明確であるため、妊娠中は使用が推奨されません。
アセトアミノフェンの限界:一般的に安全とされるアセトアミノフェン(カロナールなど)は、重度の片頭痛に対しては効果が不十分な場合があります。また、最近の研究では長期使用に関する懸念も一部で指摘されています。
トリプタン製剤:効果の高いトリプタン系薬剤は、薬剤によっては自然流産のリスク上昇との関連を示唆するデータもあり、安全性が完全に確立されていません。
このような背景から、多くの女性が治療を諦めたり痛みを抱えたまま妊娠期間を過ごしたりしています。そこで登場するのが薬を使わない「神経調節デバイス」です。
神経調節デバイス(ニューロモジュレーション)とは?
神経調節デバイスとは、電気や磁気を使って神経の活動を調整し痛みの信号をブロックしたり痛みを抑える脳のシステムを活性化させたりする医療機器です。
非侵襲的な治療です
「非侵襲的」とは手術で体内に埋め込んだり、注射をしたりせず、体の外側から皮膚を通して刺激を与えることを意味します。
薬剤を使用しないため、薬による全身性の副作用や胎児への薬剤移行の心配が少ないのが最大の特徴です。
現在、米国食品医薬品局(FDA)によって頭痛治療用に承認されている主なデバイスは5つあります。これらのデバイスはそれぞれ異なる神経をターゲットにしています。
FDA承認済み:5つの主要デバイスの詳細
1. REN:リモート電気神経調節(Nerivio®など)
妊娠中の安全性:レベルIII(高)
使用部位:上腕(二の腕)
仕組み:スマートフォンで操作できる腕章型のデバイスです。二の腕に電気刺激を与えることで、脳幹にある痛みの調節システム(条件付き疼痛変調:CPM)を活性化させます。
「痛みで痛みを制す」ような体の自然なメカニズムを利用しセロトニンやノルアドレナリンの働きを調整して頭痛を抑えます。
治療効果(データ)
2019年の臨床試験では以下の結果が出ています。
66.7% の患者が2時間後に痛みの軽減を報告(偽デバイス群は38.8%)
37.4% の患者が2時間後に「痛みが完全に消失」したと報告
予防効果としても、慢性片頭痛で月間4.7日の頭痛減少が示されています。
妊娠中の安全性
最も安全性のエビデンスが蓄積されているデバイスの一つです。2023年の調査(妊婦59名使用)では、早産や出生時体重、発育においてデバイスを使用しなかった群と統計的な差は見られませんでした。
メリット・デメリット
メリットは、装着が簡単でスマホで管理できる点、そして妊娠中の安全性データが比較的多い点です。
デメリットは、コストがかかることや、効果に個人差があることです。
2. nVNS:非侵襲性迷走神経刺激(gammaCore™など)
妊娠中の安全性:レベルIV(中)
使用部位:首(迷走神経)
仕組み:首の側面にある迷走神経に電気刺激を与えるハンドヘルド(手持ち式)デバイスです。自律神経系を調整し脳内の痛みに関わる神経伝達物質の放出を抑制することで頭痛を鎮めます。
治療効果(データ)
臨床試験(PRESTO試験)の結果は以下の通りです。
30分後の痛み消失率:12.7%(偽デバイス群4.2%)
60分後の痛み消失率:21.0%(偽デバイス群10.0%)
群発頭痛に対しても高い効果が認められています。
妊娠中の安全性
妊娠中の片頭痛患者に対する直接的な大規模データはまだありません。
しかし、てんかん治療などで用いられる埋め込み型VNSのデータや動物実験からは胎児への明らかな悪影響(催奇形性など)は報告されていません。
メリット・デメリット
片頭痛だけでなく群発頭痛にも効果がある点が強みです。
一方、妊娠中特有のデータが不足しているため使用には慎重な判断が必要です。
3. eTNS:外部三叉神経刺激(CEFALY®など)
妊娠中の安全性:レベルIII(高)
使用部位:額(おでこ)
仕組み:おでこに電極パッドを貼り、三叉神経(顔の感覚を司る神経)を刺激します。脳の痛みの中枢に鎮静的な作用をもたらし片頭痛の発生を抑えます。
治療効果(データ)
急性期治療:59% の患者で痛みが軽減(ACME試験)。
予防療法:38.1% の患者で、月間片頭痛日数が50%以上減少しました(PREMICE試験)。
妊娠中の安全性
RENと同様に、妊娠中の使用に関して比較的高い安全性レベル(レベルIII)と評価されています。うつ病治療での使用例などで重篤な副作用がないことが示唆されています。
メリット・デメリット
一部の国では市販されており入手しやすいのがメリットです。
デメリットは、おでこへの刺激(ピリピリ感)を不快に感じる人がいることや使用中は眠気を感じることがある点です。
4. sTMS:単発パルス経頭蓋磁気刺激(SpringTMS®など)
妊娠中の安全性:限定的
使用部位:後頭部
仕組み:後頭部に磁気パルスを一回照射することで脳の過剰な興奮(皮質拡延性抑制)を抑えます。電気ではなく磁気を使うのが特徴です。
治療効果(データ)
2時間後の痛み消失率:39%(偽デバイス群22%)
予防効果:月間の頭痛日数が平均 2.75日 減少(プラセボ群は0.63日)
妊娠中の安全性
データは非常に限られていますが、少数例の報告では副作用なく痛みが軽減したとされています。
胎児への磁気の影響についてはMRI検査と同様にリスクは低いと考えられていますが、さらなる研究が必要です。
5. eCOT-NS:外部同時後頭部・三叉神経刺激(Relivion®)
妊娠中の安全性:限定的
使用部位:額と後頭部(ヘッドセット型)
仕組み:前頭部(三叉神経)と後頭部(後頭神経)の両方を同時に刺激するヘッドセット型の新しいデバイスです。複数の神経経路へ同時にアプローチすることで、強力な効果を目指しています。
治療効果(データ)
使用直後:53% の患者で痛みが軽減。
24時間後:71% の患者で痛みが軽減(持続的な効果)
妊娠中の安全性
最新のデバイスであるため妊娠中の使用に関するデータは現時点ではほとんどありません。埋め込み型の類似療法では合併症のない妊娠例が報告されていますが慎重な検討が必要です。
効果と安全性
治療効果の目安(急性期:痛み消失・軽減率)
※各研究のデザインが異なるため、単純な比較はできませんが、目安としてご覧ください。

妊娠中の安全性レベル比較

デバイス比較一覧表
デバイス名 | メカニズム | 主な効果 | 妊娠中の安全性 | 主な副作用 |
REN (Nerivio) | 上腕への電気刺激 (脳幹の調整) | 66.7%が痛み軽減 | レベルIII (比較的安心) | 腕のピリピリ感 一時的な痛み |
nVNS (gammaCore) | 首の迷走神経刺激 | 21%が痛み消失 | レベルIV (データ限定的) | 適用部の不快感 めまい |
eTNS (CEFALY) | 額の三叉神経刺激 | 59%が痛み軽減 | レベルIII (比較的安心) | おでこの感覚異常 眠気 |
sTMS (SpringTMS) | 後頭部への磁気刺激 | 39%が痛み消失 | 不明/限定的 | 軽いふらつき 耳鳴り |
eCOT-NS (Relivion) | 額+後頭部の同時刺激 | 71%が24時間後軽減 | 不明/限定的 | 不快感 |
※費用については地域や保険適用状況により大きく異なるため医療機関にご確認ください。
コメント
妊娠中の頭痛管理は安全性がある程度確立されている治療などがガイドラインには記載されておりますが、妊娠している方をみていると安全性がわかっているとなっていても内服自体は怖いイメージが残り、治療に踏み切れない方が多くいらっしゃいます。
当院で行っている後頭神経ブロックも内服ではないので比較的妊娠・授乳期に行いやすい治療ですが注射なので注射嫌いの人は行えない場合もあります。
今回紹介したデバイスによる治療は電気刺激を頭の神経に与えて痛みを軽減させる治療で、注射の薬剤注入もないので抵抗が少なくなる方も多いのではないかと期待しています。
まだ日本での使用例は限られておりますが、将来治療選択肢の拡大が期待されます。
参考文献
Smirnoff, L., Bravo, M., & Hyppolite, T. (2025). Neuromodulation for Headache Management in Pregnancy. Current Pain and Headache Reports, 29:14. https://doi.org/10.1007/s11916-024-01344-1
※本記事は情報提供を目的としており、医師の診断や治療に代わるものではありません。具体的な治療については必ず専門医にご相談ください。
監修医師紹介
大阪頭痛脳神経クリニック
猪股 拓海 Takumi Inomata

資格・所属学会
日本内科学会 内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本神経学会 脳神経内科専門医
専門分野
脳神経内科
略歴
2018年
秋田大学医学部医学科 卒業
市立秋田総合病院 初期臨床研究プログラム
2020年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2022年
国立病院機構 あきた病院 脳神経内科
2023年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2025年
天王寺だい脳神経外科
2026年
大阪頭痛脳神経クリニック / 天王寺だい脳神経外科
天王寺だい脳神経外科
山田 大 Dai Yamada

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
身体福祉障害者指定医
難病指定医
日本脳神経外科コングレス
日本頭痛学会
日本脳卒中学会
日本認知症学会
日本頭痛学会 頭痛専門医
専門分野
頭痛の治療
認知症の治療
首、腰の病気、しびれ
血管の病気
めまい、たちくらみ
てんかん
高血圧、高脂血症、糖尿病
リハビリテーション
略 歴
2013年
近畿大学医学部医学科 卒業
高砂市民病院 初期研修医 内科、外科、製鉄記念広畑病院 救急科
2015年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2018年
医療法人寿会 福島県 総合南東北病院 脳神経外科
2019年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2021年12月
医療法人寿会 富永病院 退職
2022年2月
天王寺だい脳神経外科 開院




コメント