片頭痛と脳卒中の関係
- 大阪頭痛脳神経クリニック
- 3月6日
- 読了時間: 7分
更新日:6 日前

はじめに
片頭痛をお持ちの患者さんから「片頭痛があると脳卒中になりやすいのでしょうか?」というご質問をよくいただきます。
この度、世界的に権威のある科学雑誌「Scientific Reports」に発表された大規模研究により前兆を伴う片頭痛と早期発症脳卒中の間に、因果関係があることが科学的に証明されました。
本記事ではこの重要な研究結果を患者さんにも分かりやすく解説し、日常生活で気をつけていただきたい点についてお話しします。
目次
研究の概要と信頼性
今回の研究では、「メンデルランダム化分析」という最新の遺伝学的手法が用いられました。
この手法は生まれつき持っている遺伝子の違いを利用して、病気の原因と結果の関係を調べる方法です。従来の観察研究と違い他の要因による影響を排除できるため、より確実な因果関係を証明できます。
研究の規模も非常に大きく、16,730例の早期発症脳卒中患者さんと599,237名の健康な方を対象としました。早期発症脳卒中とは、18歳から59歳までの比較的若い年齢で起こる脳卒中のことです。
これまでの研究では年齢を区別せずに調査していたため、明確な結果が得られませんでしたが、今回は年齢を限定することでより精密な分析が可能になりました。
主要な研究結果
・前兆を伴う片頭痛:早期発症脳卒中リスクが7.4%増加
・前兆のない片頭痛:脳卒中リスクとの関連なし
・片頭痛全体:脳卒中リスクとの関連なし
最も重要な発見は前兆を伴う片頭痛の患者さんでは、早期発症脳卒中のリスクが統計学的に有意に高いということです。
具体的には、オッズ比が1.074(95%信頼区間:1.022-1.130、p値=0.005)という結果でした。
オッズ比1.074という数値の意味を分かりやすく説明すると、前兆を伴う片頭痛の方はそうでない方と比べて早期発症脳卒中になる可能性が約7.4%高いということです。
これは統計学的に意味のある差ですが、決して非常に高いリスクではありません。
一方で、前兆のない片頭痛や片頭痛全体では脳卒中リスクの有意な増加は認められませんでした。つまり、前兆があるかどうかが重要な要因であることが明らかになりました。
表1:片頭痛タイプ別の早期発症脳卒中リスク比較
片頭痛のタイプ | オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | リスク評価 |
前兆を伴う片頭痛 | 1.074 | 1.022-1.130 | 0.005 | 有意にリスク増加 |
前兆のない片頭痛 | 0.941 | 0.843-1.050 | 0.277 | 関連なし |
片頭痛全体 | 0.941 | 0.843-1.050 | 0.277 | 関連なし |
なぜ前兆を伴う片頭痛でリスクが高いのか?
前兆を伴う片頭痛で脳卒中リスクが高くなる理由について、研究では以下のメカニズムが考えられています。
・血液の凝固傾向
前兆を伴う片頭痛の患者さんでは、血液が固まりやすい傾向(血栓傾向)があることが知られています。
これにより脳の血管に血栓ができやすくなり脳梗塞のリスクが高まります。
・遺伝的要因
研究では、前兆を伴う片頭痛と早期発症脳卒中の間に遺伝的相関係数0.208という有意な遺伝的関連性が見つかりました。
これは、両方の病気に共通する遺伝的要因があることを示しています。
・心臓の構造異常
卵円孔開存症(心房中隔欠損の一種)は、前兆を伴う片頭痛の患者さんで高い頻度で見られます。この構造異常により、奇異性塞栓症のリスクが高まる可能性があります。
・心房細動との関連
前兆を伴う片頭痛の患者さんでは、心房細動の有病率も高いことが報告されています。
心房細動は脳塞栓症の重要な危険因子です。
・ 拡延性抑制(Spreading Depolarization)
片頭痛の前兆時に脳で起こる「拡延性抑制」という現象が、脳卒中のリスク増加に重要な役割を果たしている可能性があります。
・炎症と血管内皮機能
前兆を伴う片頭痛では炎症マーカーの上昇や血管内皮機能の低下が見られることがあり、これらも脳卒中リスクに影響する可能性があります。
年齢とリスクの関係
興味深いことに、片頭痛と脳卒中の関係は年齢によって大きく異なることが分かっています。過去の研究では、以下のような年齢別のリスクが報告されています
表2:年齢層別の片頭痛による脳卒中リスク(ハザード比)
年齢層 | ハザード比 | 95%信頼区間 | リスク評価 |
20-30歳 | 2.70 | 1.12-6.56 | 高リスク |
30-40歳 | 2.02 | 1.25-3.27 | 高リスク |
40-50歳 | 2.08 | 1.51-2.87 | 高リスク |
50歳以上 | ≤1.21 | - | リスク低下 |
このような年齢による違いが生じる理由として、加齢に伴う他のリスク要因との相互作用が考えられています。
高齢者では高血圧、糖尿病、動脈硬化などの従来の脳卒中危険因子が主要な役割を果たすため、片頭痛による影響が相対的に小さくなると考えられます。
患者さんへの実際的なアドバイス
重要なポイント
前兆を伴う片頭痛の患者さんでも、過度に心配する必要はありません。
リスクの増加は統計学的に有意ですが絶対的なリスクはそれほど高くありません。適切な管理により予防が可能です。
従来の脳卒中危険因子の管理
血圧管理:高血圧の治療と定期的な測定
血糖管理:糖尿病の予防と適切な治療
禁煙:喫煙は脳卒中の重要な危険因子です
適正体重の維持:肥満の改善
適度な運動:定期的な有酸素運動
片頭痛の適切な治療
予防薬の適切な使用
急性期治療薬の正しい使い方
トリガー要因の回避
規則正しい生活習慣の維持
女性患者さんの特別な注意点
経口避妊薬:前兆を伴う片頭痛の方は使用を避けることが推奨されます
妊娠計画:妊娠時の片頭痛管理について事前に相談
ホルモン補充療法:更年期治療時は医師との十分な相談が必要
症状変化時の対応
前兆の症状が以前と異なる場合は速やかに受診
片頭痛の頻度や強度が急に変化した場合の相談
新たな神経症状が現れた場合の緊急受診
定期的な医師との相談
年に1-2回は頭痛専門医や神経内科医と相談し治療方針の見直しや新しい治療選択肢について話し合うことが重要です。
コメント
前兆のある片頭痛と脳卒中関連の記事です。
ガイドラインを参考に45歳未満の前兆のある片頭痛の方は脳梗塞のリスクがある程度あり、ピルや喫煙を禁止するようにお話させて頂くことが多いです。(前兆のない場合はピルの禁止はしておりません。)
初回前兆の場合は前兆のある片頭痛が確定診断ではないのでリスクがあることを説明した上で婦人科とも相談して頂いてることが多いです。
このように片頭痛と脳卒中に関しては前兆があるかないかで内容が変わってきます。前兆が今までなかった方も片頭痛の経過で後に前兆が出てくる方もいらっしゃいますので、前兆のない片頭痛で治療中の場合にも前兆が新規に出た場合には担当医までご相談ください。
参考文献
Zhang R, Niu PP, Li S, Li YS. Mendelian randomization analysis reveals causal effects of migraine and its subtypes on early-onset ischemic stroke risk. Scientific Reports. 2024;14:31505.DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-024-83344-0
その他の関連研究
Hvitfeldt Fuglsang C, et al. Migraine and risk of premature myocardial infarction and stroke among men and women: A Danish population-based cohort study. PLoS Med. 2023;20(6):e1004238.
Peng KP, et al. Migraine and incidence of ischemic stroke: A nationwide population-based study. Cephalalgia. 2017;37(4):327-335.
Ng CYH, et al. Myocardial infarction, stroke and cardiovascular mortality among migraine patients: A systematic review and meta-analysis. J Neurol. 2022;269(5):2346-2358.
監修医師紹介
大阪頭痛脳神経クリニック
猪股 拓海 Takumi Inomata

資格・所属学会
日本内科学会 内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本神経学会 脳神経内科専門医
専門分野
脳神経内科
略歴
2018年
秋田大学医学部医学科 卒業
市立秋田総合病院 初期臨床研究プログラム
2020年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2022年
国立病院機構 あきた病院 脳神経内科
2023年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2025年
天王寺だい脳神経外科
2026年
大阪頭痛脳神経クリニック / 天王寺だい脳神経外科
天王寺だい脳神経外科
山田 大 Dai Yamada

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
身体福祉障害者指定医
難病指定医
日本脳神経外科コングレス
日本頭痛学会
日本脳卒中学会
日本認知症学会
日本頭痛学会 頭痛専門医
専門分野
頭痛の治療
認知症の治療
首、腰の病気、しびれ
血管の病気
めまい、たちくらみ
てんかん
高血圧、高脂血症、糖尿病
リハビリテーション
略 歴
2013年
近畿大学医学部医学科 卒業
高砂市民病院 初期研修医 内科、外科、製鉄記念広畑病院 救急科
2015年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2018年
医療法人寿会 福島県 総合南東北病院 脳神経外科
2019年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2021年12月
医療法人寿会 富永病院 退職
2022年2月
天王寺だい脳神経外科 開院


コメント