頭痛と家族計画
- 大阪頭痛脳神経クリニック
- 3月4日
- 読了時間: 7分
更新日:6 日前

この記事について
2025年に発表された日本初の大規模調査研究「頭痛と家族計画に関する学校ベース調査」の結果をもとに、頭痛が妊娠や出産計画にどのような影響を与えるかについて、解説いたします。
目次
なぜこの研究が重要なのか
日本では少子高齢化が深刻な社会問題となっており、2015年に約100万人だった出生数は、年率3.5%の減少で2021年には81万人まで落ち込んでいます。出生率低下の要因には経済的・社会的な理由が多く挙げられていますが、これまで頭痛などの疾患が妊娠計画に与える影響については十分に調査されていませんでした。
頭痛は最も頻度の高い神経疾患の一つで、日本では片頭痛が4.3-8.4%、緊張型頭痛が15-20%の人に見られます。特に女性に多く、月経、妊娠、更年期といった女性特有のライフイベントと密接な関係があることが知られています。
研究の背景
この研究は2023年8月から12月にかけて、長野県諏訪市の小学校・中学校・高等学校の全5,558世帯の保護者を対象として実施されました。諏訪市は人口47,594人の地方都市で、製造業が盛んな地域です。
調査規模:
対象世帯数:5,558世帯
回答数:1,142件(回答率20.1%)
頭痛のある保護者:717名(12.9%)
女性の割合:91.1%(653名)
年齢中央値:43歳(37-46歳)
調査結果の概要
717名の頭痛患者のうち、39名(5.4%)が「頭痛のために妊娠を避けている・避けたことがある」と回答しました。一方、678名(94.6%)は「頭痛は妊娠計画に影響しない」と答えています。
頭痛の重症度データ
項目 | 全体の中央値 | 妊娠に影響なし群 | 妊娠回避群 |
月間頭痛日数(MHD) | 3日 | 3日 | 5日 |
月間薬物使用日数(AMD) | 3日 | 3日 | 5日 |
HIT-6スコア | 62点 | 60点 | 66点 |
年齢中央値 | 43歳 | 43歳 | 39歳 |
急性期治療薬使用率 | 78.4% | 77.6% | 92.3% |
月経時悪化率 | 53.6% | 52.1% | 80.0% |
頭痛が妊娠計画に影響を与える理由
妊娠回避群の患者さんは、以下のような特徴を示していました:
若い年齢層:平均39歳と、影響なし群より若い
重症な頭痛:月間頭痛日数、薬物使用日数、HIT-6スコアがすべて高い
月経関連頭痛:80%の人が月経時に頭痛が悪化
薬物依存:92.3%が急性期治療薬を使用
患者さんの懸念事項
研究では、頭痛患者さんの妊娠・出産に関する6つの懸念について調査しました。妊娠回避群では、すべての項目でより高い割合の人が「はい」と回答しています:
懸念事項 | 影響なし群 | 妊娠回避群 |
妊娠中・産後に頭痛が悪化する | 23.6% | 41.0% |
頭痛により妊娠が困難になる | 19.2% | 71.8% |
頭痛により育児が困難になる | 16.7% | 51.3% |
頭痛薬が胎児に悪影響を与える | 46.5% | 79.5% |
頭痛が先天性異常を引き起こす | 10.5% | 35.9% |
頭痛の遺伝的リスクを子に伝える | 57.8% | 71.8% |
頭痛と妊娠について知っておくべきこと
妊娠中の頭痛について
良いニュース:片頭痛の55-90%の女性では、妊娠中に頭痛が改善します。これは妊娠中にエストロゲンや内因性オピオイドが上昇し、痛みの閾値が上がるためです。
妊娠中に安全とされる治療法
アセトアミノフェン:妊娠中の第一選択薬
NSAIDs:妊娠初期は使用可能(ただし受胎時期や妊娠後期は避ける)
トリプタン系薬剤:特にスマトリプタンは安全性が確認されている
予防薬:プロプラノロール、アミトリプチリンが使用可能
重要:妊娠中でも7%の女性が初回の片頭痛を経験することがあります。適切な治療により、妊娠中も頭痛をコントロールすることは可能です。
治療の選択肢
最新の治療法:CGRP関連薬
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした新しい予防薬は、片頭痛治療に革命をもたらしています。しかし、妊娠中の安全性はまだ確立されておらず、妊娠を計画している場合は医師との十分な相談が必要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関連
PCOSは生殖年齢女性に多い内分泌疾患で、不妊の原因となることがあります。ホルモンバランスの乱れにより頭痛が悪化することがあり、婦人科医と神経内科医の連携した治療が重要です。
スティグマへの対応
この研究では、妊娠回避群の患者さんが頭痛に関する正しい知識を受け入れにくい傾向があることも明らかになりました。これは長年の頭痛による苦痛体験から形成された「内在化されたスティグマ」が原因と考えられます。
スティグマを克服するために
頭痛は「ただの頭痛」ではなく、治療可能な神経疾患であることを理解する
早期の専門医受診により適切な診断と治療を受ける
家族や職場での理解を求める
患者会などのサポートグループを活用する
妊娠を希望される頭痛患者さんへ
妊娠を希望される頭痛患者さんには、以下のような段階的なアプローチをお勧めします:
妊娠前準備:頭痛専門医による詳しい診断と治療計画の立案
薬物調整:妊娠中も安全に使用できる薬物への変更
非薬物療法:生活習慣の改善、ストレス管理、リラクゼーション法の習得
多職種連携:産婦人科医との情報共有と連携治療
継続的サポート:妊娠中から産後まで一貫したフォローアップ
研究の限界と今後の課題
この研究にはいくつかの限界があります:
学校ベース調査のため、子どもがいない家庭は対象外
回答率が20.1%と低く、選択バイアスの可能性
「頭痛」という広い概念での調査で、片頭痛などの具体的診断は含まれていない
自己申告による調査のため、客観性に限界
今後はより大規模で詳細な調査により、頭痛と妊娠計画の関係をさらに明らかにしていく必要があります。
コメント
妊娠、出産はとても大事なライフイベントですが、片頭痛も若年女性に多く、頭痛治療との兼ね合いが難しい場合があります。一般的に妊娠中は頭痛が減って出産後に再燃しやすいのですが、妊娠前に頭痛頻度を減らしておくと出産後の頭痛頻度も低減されると言われており、計画的に治療していくことが大事かと思います。片頭痛の特異的な治療のCGRP関連抗体薬は妊娠中のデータが乏しく最後の注射から半年間程度は妊娠しないようにお願いしていることもあり、患者さん自身の妊娠計画と頭痛の治療計画をある程度長期のスパンで計画しておくことで、懸念事項を減らしていけたらと思います。
参考文献
Katsuki M, Wada N, Iijima K, Yoshizawa N, Toya Y, Hanaoka Y, Kaneko K, Kajikawa S. Headaches and family planning: insights from a Japanese school-based survey. The Journal of Headache and Pain. 2025;26:161. https://doi.org/10.1186/s10194-025-02102-3
※この記事は上記研究論文に基づいて作成されており、個別の治療方針については必ず主治医にご相談ください。
監修医師紹介
大阪頭痛脳神経クリニック
猪股 拓海 Takumi Inomata

資格・所属学会
日本内科学会 内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本神経学会 脳神経内科専門医
専門分野
脳神経内科
略歴
2018年
秋田大学医学部医学科 卒業
市立秋田総合病院 初期臨床研究プログラム
2020年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2022年
国立病院機構 あきた病院 脳神経内科
2023年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2025年
天王寺だい脳神経外科
2026年
大阪頭痛脳神経クリニック / 天王寺だい脳神経外科
天王寺だい脳神経外科
山田 大 Dai Yamada

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
身体福祉障害者指定医
難病指定医
日本脳神経外科コングレス
日本頭痛学会
日本脳卒中学会
日本認知症学会
日本頭痛学会 頭痛専門医
専門分野
頭痛の治療
認知症の治療
首、腰の病気、しびれ
血管の病気
めまい、たちくらみ
てんかん
高血圧、高脂血症、糖尿病
リハビリテーション
略 歴
2013年
近畿大学医学部医学科 卒業
高砂市民病院 初期研修医 内科、外科、製鉄記念広畑病院 救急科
2015年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2018年
医療法人寿会 福島県 総合南東北病院 脳神経外科
2019年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2021年12月
医療法人寿会 富永病院 退職
2022年2月
天王寺だい脳神経外科 開院


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