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多発性硬化症(MS)を理解する- 患者様とご家族のために -

  • 執筆者の写真: SNS 医療法人壮大会
    SNS 医療法人壮大会
  • 11月17日
  • 読了時間: 8分

はじめに

多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)と診断を受けられた患者様、またはそのご家族の皆様へ。この病気について正しく理解していただくための記事です。MSは決して珍しい病気ではなく、適切な治療により症状をコントロールできる疾患です。一人で悩まず、医療チームと共に前向きに治療に取り組んでいきましょう。

1. 多発性硬化症とは

多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄、視神経などの中枢神経系に炎症が起こり、神経の伝導に障害が生じる病気です。「多発性」という名前の通り、様々な場所に病変(病気による変化)が現れ、「硬化」は炎症の痕が硬くなることを意味しています。

MSの特徴として、多くの場合、症状が現れる「再発(さいはつ)」と症状が改善する「寛解(かんかい)」を繰り返すことが挙げられます。この病気は感染症ではありませんので他の人にうつることはありませんし、遺伝病でもありません

2. 病気のメカニズム

正常な神経は、電線がビニールで覆われているように、「ミエリン」という物質で保護されています。このミエリンがあることで、脳からの信号が体の各部位にスムーズに伝わります。

正常な神経

ミエリン

信号が正常に伝わる

MSで障害された神経

脱髄

信号の伝達に障害

MSでは、何らかの原因でミエリンが破壊される「脱髄(だつずい)」という現象が起こります。これにより神経の信号伝達が妨げられ、様々な症状が現れるのです。

3. 原因について

MSの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、自己免疫疾患の一種と考えられています。これは、本来外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の体の一部(ミエリン)を攻撃してしまう状態です。

発症に関わる要因

  • 遺伝的要因:完全な遺伝病ではありませんが、遺伝的な体質が関与する可能性があります

  • 環境要因:ウイルス感染、ビタミンD不足、喫煙などが発症リスクを高める可能性があります

  • 地理的要因:高緯度地域(北欧など)で発症率が高い傾向があります

4. 症状について

MSの症状は、病変が生じる場所によって様々です。同じ患者様でも、再発のたびに異なる症状が現れることがあります。

主な症状

感覚障害


手足のしびれ、痛み、感覚の鈍さ

運動障害


筋力低下、歩行困難、ふらつき

視覚障害


視力低下、複視、視野の欠損

平衡感覚障害


めまい、バランス感覚の低下

排尿・排便障害


頻尿、尿失禁、便秘

認知機能障害


記憶力低下、集中力の低下

疲労感


異常な疲れやすさ、だるさ

その他


嚥下障害、構音障害、うつ症状

ウートフ現象について

体温が上昇すると一時的に症状が悪化する現象です。入浴や運動、発熱時に症状が強くなることがありますが、体温が下がれば症状も改善します。

5. 病気の経過とタイプ

MSは経過によって主に3つのタイプに分類されます。

MSのタイプ

特徴

全体に占める割合

再発寛解型MS(RRMS)

再発と寛解を繰り返す。寛解期は症状が安定または改善する

約85%

二次性進行型MS(SPMS)

最初は再発寛解型だったが、徐々に症状が進行するようになる

約10-15%

一次性進行型MS(PPMS)

発症当初から持続的に症状が進行する

約5%

6. 日本と世界の患者数

MSの患者数は世界的に増加傾向にあります。

患者数の比較

地域

患者数

有病率(10万人あたり)

日本

約19,000人

14-18人

世界全体

約280万人

-

北欧諸国

-

100-200人

発症年齢の分布

5%10代

40%20代

35%30代

15%40代

5%50代以上

20-30歳代での発症が最も多い

男女比

女性(75%)

男性(25%)

女性が男性の約3倍多く発症

7. 検査と診断

MSの診断は、症状、MRI検査、髄液検査などを総合的に評価して行われます。

検査項目

目的

特徴

MRI検査

脳・脊髄の病変の確認

最も重要な検査。造影剤使用で活動性病変も確認

髄液検査

炎症反応の確認

オリゴクローナルバンドの検出

誘発電位検査

神経伝導の評価

視覚、聴覚、体性感覚の伝導時間を測定

血液検査

他疾患の除外

類似症状を示す他の病気を除外

診断基準(マクドナルド基準)

MSの診断には国際的に統一された基準が使用されます。「空間的多発性」(複数の場所に病変)と「時間的多発性」(異なる時期に病変が出現)の両方が確認される必要があります。

8. 治療について

MSの治療は大きく3つの段階に分けられます。

治療の段階

目的

主な治療法

急性期治療

再発時の症状を早期に改善

ステロイドパルス療法、血漿浄化療法

寛解期治療

再発予防と進行抑制

疾患修飾薬(DMD)による長期治療

症状緩和治療

残存症状の改善

症状に応じた薬物療法、リハビリテーション

疾患修飾薬(DMD)の種類(日本で承認されている薬剤)

薬剤名


(商品名)

投与経路

投与頻度

効能・効果

主な副作用

インターフェロンβ-1b


(ベタフェロン®)

皮下注射

1回/2日

MSの再発予防及び進行抑制


(一次性進行型MSに対する有効性及び安全性は確立していない)

インフルエンザ様症状、注射部位反応、白血球減少、肝機能異常、うつ

インターフェロンβ-1a


(アボネックス®)

筋肉注射

1回/週

MSの再発予防及び進行抑制


(一次性進行型MSに対する有効性及び安全性は確立していない)

インフルエンザ様症状、過敏性反応、白血球減少、肝機能異常、頭痛

グラチラマー酢酸塩


(コパキソン®)

皮下注射

1回/日

MSの再発予防

注射部位反応、注射直後反応(胸痛、動悸、呼吸困難など)、過敏症

フィンゴリモド


(イムセラ®、ジレニア®)

経口

1回/日

MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制

導入期初期の徐脈・不整脈、感染症(帯状疱疹含む)、リンパ球減少、肝機能異常、黄斑浮腫、PML

フマル酸ジメチル


(テクフィデラ®)

経口

2回/日

MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制

消化器症状(下痢・悪心・嘔吐・腹痛等)、灼熱感・熱感・紅潮、白血球減少、肝機能異常、感染症、PML

ナタリズマブ


(タイサブリ®)

点滴静注

1回/4週

MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制

PML、感染症、過敏症、肝障害、急性網膜壊死

シポニモドフマル酸


(メーゼント®)

経口

1回/日

二次性進行型MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制

導入期初期の徐脈・不整脈、感染症、リンパ球減少、肝機能異常、PMLについては不明

オファツムマブ


(ケシンプタ®)

皮下注射

初回週1回×3回


その後4週間隔

再発寛解型MS及び疾患活動性を有する二次性進行型MS患者における再発予防及び身体的障害の進行抑制

感染症、注射に伴う全身反応、注射部位反応、PMLについては不明

導入時の注意点

  • IFN製剤:漸増での導入が推奨されています

  • フィンゴリモド:導入初期は徐脈・不整脈に注意が必要です

  • シポニモド:CYP2C9遺伝子多型により維持量や投与の可否が決定されます。漸増での導入が必須です

  • オファツムマブ:初回の導入スケジュールのみ初回、次の週、その2週後、その後4週間隔となります

注意事項

上記は2024年時点で日本で承認されている主な疾患修飾薬です。新しい薬剤が承認される可能性もありますので、最新の情報については主治医にご確認ください。各薬剤には適応条件や使用上の注意点がありますので、必ず医師の指導のもとで使用してください。

薬剤選択のポイント

どの薬剤が最適かは、患者様の病状、ライフスタイル、妊娠希望の有無などによって異なります。主治医と十分に相談し、ご自身に合った治療法を選択することが重要です。

  • 病状の活動性:再発頻度やMRI所見に応じて選択

  • 投与方法の希望:注射が苦手な方は経口薬、通院頻度を減らしたい方は点滴薬

  • 副作用プロファイル:個人の体質や持病との兼ね合い

  • 生活スタイル:仕事や家庭の状況に合わせた選択

9. 早期治療の重要性

MSの治療において最も重要なのは「早期からの治療開始と継続」です。

治療を行わない場合、再発頻度が高くなり、脳萎縮が進行し、認知機能低下や歩行障害が進むことがあります。一方、早期から適切な治療を行うことで、再発率の低下、脳萎縮の抑制、認知機能の保持、そして生活の質の維持が期待できます。

早期治療の効果

  • 再発率の減少:適切な治療により再発率を60-70%減少させることが可能

  • 進行の抑制:二次性進行型への移行を遅らせる効果

  • 脳萎縮の抑制:健康な脳組織の保護

  • 生活の質の維持:日常生活や社会生活の継続

10. 日常生活での注意点

MSと上手に付き合っていくために、日常生活で以下の点にご注意ください。

体温管理


入浴時間を短くし、ぬるめのお湯を使用。暑い環境を避ける

適度な運動


疲労しない程度の軽い運動を継続。理学療法士と相談

ストレス管理


十分な睡眠と休息。リラクゼーション法の実践

感染症予防


手洗い・うがいの徹底。予防接種の相談

栄養管理


バランスの良い食事。ビタミンDの補給を検討

服薬管理


処方薬の確実な服用。副作用の記録と報告

注意すべき症状

以下の症状が現れた場合は、速やかに医療機関にご相談ください:

  • 新たな神経症状の出現

  • 既存の症状の明らかな悪化

  • 発熱を伴わない症状の急激な変化

  • 24時間以上持続する症状

11. コメント

 多発性硬化症は神経疾患の中では治療が近年進んできている分野で、似た病気である視神経脊髄炎と並んで新たな抗体薬などが進歩を遂げている分野です。髄液検査や造影MRI検査が診断に必要な背景もありクリニックのみで確定診断をすることは難しいですが、診断後の疾患修飾薬による予防の継続やフォローのMRI検査であれば対応できることも多いです。また無症状でも頭痛などでMRIを撮影した際に偶発的に多発性硬化症を疑う病変が見つかる場合もありますので昔に視力低下があったが一過性で回復した方など、心配な症状がある方は受診をお勧めいたします。

参考文献

  1. ノバルティス ファーマ株式会社「多発性硬化症.jp」


    https://www.healthcare.novartis.co.jp/multiplesclerosis


    (アクセス日:2024年12月)

  2. 新野 正明「多発性硬化症」日本内科学会雑誌 第110巻 第8号, pp.1562-1567, 2021年


    日本内科学会

  3. 日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院, 2023年


【梅田院の開院について】

梅田院は2025年3月頃の開院を予定しています。開院までの間、お急ぎの症状やお困りごとがあれば、天王寺だい脳神経外科にて診療しております。

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